2022年12月4日にワークショップ「アート寺子屋~みて、きいて、さわって、つくっちゃおう~よくばりアート編」を下記の内容で実施しました。

① 身の回りの音で音楽を作ろう!
みんなで集めた「面白い音」が鳴る楽器を使って、作曲に挑戦します。
② 作った音楽を聴いてからだを動かそう!
自分が作った音楽に合わせて、ダンスやポーズをしてみよう。
③ 自分の分身を作ろう
できたポーズを大きな紙にうつして、絵を描いて、自分の分身を作ります。
④ 楽寿園に飾ってみよう!
音楽を流して見たら、みんなで楽寿園でダンスしてるみたいに見えるかも?

※以下は、講師・片倉惇さん(音楽担当)によるレポートです。

1.全体の感想

 – 最新テクノロジーを活用した体験教育の可能性を感じた

 今回、インタラクティブアートの要素がある高度なワークショップを提案した。事前に録音方法を示す動画を作成し、各家庭で視聴してもらった上、スマホで「身の回りの音」を録音してもらう、高いハードルを要求する形となった。実施者が少ない場合や、録音がうまくできない場合も想定していたが、相当数の価値ある録音データが集まったのは嬉しい誤算だった。

 ここから「一見、複雑高度な内容に思えても、スマホやゲームなど、各参加者の裡で操作経験のある方法をとれば、実施可能性が高まるのではないか」という印象を持った。google検索、SiriAlexaなどのボイスアシスタント、スマホのGPSマップ、マインクラフトなどのゲームプラットフォーム、Scratchなどのプログラミング環境……等々、家庭や教育現場に入り始めている最新技術を活用することで、これまでにない体験・教育を作り出すことに期待が持てる。Scratchを直接プログラミング教育のために活用するのではなく、Scrathを触ったことのある小学生に、Scratch上で動作する音楽ソフトウェアを扱ってもらうような可能性があると思う。今後の課題としたい。

Scratch / 子供向けプログラミングスクールや小学校教育で採用されることの多い、入門用プログラミング環境

– 子供たちの音楽に対する感性への驚き

 88鍵キーボードに、子供たちに録音してもらった音を当てはめ、キーボードを押すと音が鳴る、という体験方法をとった。事前想定では、音に興味が薄い子でも「ボタンを押せば音が鳴る」「色々な操作を探索できる」玩具的な面白さで注意喚起できないかと考えていたが、どの子も積極的に音を出すことを楽しんでくれていたように見受けられた。

「子供たちからどの程度の関与が期待できるか」の経験蓄積が子供向けワークショップ運営では極めて重要と理解した。ここから、事前に想定される関与度に合わせた体験設計が可能と考えた。絵を描く、体を動かすなど日常生活の延長線上にある体験は、誰もが参加可能な、敷居の低いものと位置付けられる。一方で、訓練を受けた子ども、特定分野に興味を持っている子供むけの、より高度なワークショップの可能性も探りたい。アート教育への誘導や人材開発の観点からも有用性を作り出せそうで、民間事業者や教育機関との連携も可能性があると考える。

2.現場の課題点

 –  セッティングの大変さ

 コンピュータ、キーボードを含むPAシステムを現地で構築するのはかなり困難だった。忘れ物、現地で不足に気付いた物などが続出。 

 一般のコンサート等では、専門業者と綿密な打ち合わせの上、遂行されるプロセスであることを強く自覚し、少人数で実現するための工夫が必要だと思った。機材のセッティングシート作成、ケーブルの本数に至るまで必要機材の把握、事前に会場のレイアウト検討、等々、現場設営をスムーズに進められる工夫をしたい。

 – たっぷりとした体験時間の確保

 子供たち一人ひとりが心ゆくまで音を堪能し、自分の好きな音を選ぶ…というプロセスを実現したかったが、時間的・空間的制約から実現できなかった。

 「自分が出した音を味わう」という経験は、学校内での集団的音楽教育に足りない、重要な1ピースであると考える。たとえば坂本龍一氏は「Dメジャーセブンスの和音を気に入って一日中ピアノから音を出して聞き入っていた」経験を語っており、私自身としても、幼児の頃「地下駐車場で反響する自分の靴音を面白く感じた」という体験が音楽家になるための強いきっかけとなっている。自分と音だけがある空間で、気に入った音にひたむきに向き合える環境づくりが、子どもの音楽教育では非常に重要と考えた。

 そのために必要なのは、たっぷりとした時間と、静寂の中で自分だけが音を出せる空間である。個人的には、限られた音楽的才能のある子供だけでなく、幅広い子供に対してアートの面白さに気づいてもらう契機にできると考える。

 今後音のワークショップを行う機会があれば、限られた時間と空間の中で何ができるか、だけではなく、有意義な体験を作り出すにはどの程度の規模の時間と空間が必要か、から逆算した体験設計を考えてみたい。

3.今後に向けて(まとめ)

1.参加者のターゲティング

2.「子供たちがどの程度関与できるか」を予測・分析

3.時間的、空間的リソースの確保

4.上記を踏まえた体験設計

5.綿密な事前準備(機材、会場設営)

上記プロセスが音のワークショップにおいて重要になると考えた。

機会があれば、さらなる体験価値を提供できるよう挑戦したい。