2月11日、三島市民活動センターで、「ART= 子ども=幼児教育ワークショップ&講演会」が参加者22名で、開催されました。講師は鈴木光男氏(聖隷クリストファー大学 社会福祉学部子ども教育福祉学科教授)。鈴木先生は普段も、大学や教育関係者に講座を行われる他、カンボジアでの美術教育支援や、地域の美術支援団体の主催もされています。

〇前半
ワークショップ「子どもも大人も世界が広がる驚きのパス・クレヨン!~〝TINKERING″から〝オリジナル絵本づくり″へ~」

前半ワークショップの目的は「子供の創造性を思い出し、モノづくりや表現ということを学ぶ」こと。この日の主な教材となるクレヨン・パス・パステルの違いの説明があった後、「“手”に見える形をかいてみよう」、「ペットボトルに自由にパスで描いて感触を確かめ、下からスマホで照らしてみる」「大型パラフィンを地面にひいて、自由に描いてからそれを吊るす」など、実際に手を動かしていきました。
そして最終目標のオリジナル絵本作りに。まず白・黒・赤などの用紙に自由に線を描いたり色をぬっていきます。それをオイルでのばしたり、たわしなどでこすったりすると、また、用紙に違う模様がひろがっていきます。その後その絵を自由に切り取り2つ折りにした色紙に、貼っていき、そして新聞に書かれている文字を切り抜いて、絵本の完成となりました。

「芸術を遊ぼう」というブルーノ・ムナーリ・メソッドをもとに、何か作ろうとするのではなく、子供のように、まず色や線を探求していじくりまわすという動作を行うことによって、大人の参加者も、みんな、夢中になってワークをしていました。また、それぞれのワークの間に、人の作品も見てみる、そして、そこに刺激を受けたら(マネするのもOKとして)また、自分でも描いてみるということも行いました。
ワークを重ねるごとに童心に返り、目の前のものにわくわくしながら対峙する、そんな時間がもてました。

〇後半
「ARTを軸にした教育へのアプローチ ~正解のない保育・教育への転換~」

後半は、表題のテーマでの講演が行われました。
現状の日本の教育が抱える問題・課題、そして「自分は創造的である」と認識する若者の割合の低さ(Adobe Systemsの統計データ)、PISA(OECDの学習到達度調査)ショック、アメリカでのSTEM教育からSTEAM教育への転換、レッジョ・エミリア市の幼児教育についてなどのお話がありました。

日本では、いわゆる「ゆとり教育」期に下がったとされたPISAの国際比較順位を近年は再び世界のトップクラスに引き上げられたものの「白紙解答」など諦めの早い子供(正解を自力で導けないと思うと最後までやろうとせず投げ出してしまう)が目立つようになってきたこと、そして18~69歳に実施した科学基礎知識調査は先進14か国中12位など、これまでの日本の教育が一つの正解にこだわり過ぎて失っているものがあるという説明には、会場がうーんと唸るような空気に包まれました。

・グローバル化等で大きく変化する社会では「自分で考える力、挑戦・創造する力、コミュニケーション力」が必要であり、そのような力を培うためには、正解を求めるあまり子供の能力をつぶしていく今の日本の教育からの転換が求められている。
・子供の表現力を高めるためには大人の受信力を高める必要がある
・子供と同じ地平に立ってわくわくする
・褒めるというのは上から目線であり、それより子供のしていることに対して承認していく(肯定的に事実を認め、伝える)
などの提案をいただきました。

これからは地域に根差して子供を育てていくことが重要で、その中でアートができることはきっと色々ある、ということを考えさせられる講演会でした。

 

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参加された方からいただいた意見を一部ご紹介します。

(WSに参加した感想)

・既成概念にとらわれず、自由な発想でいいという事が理解しているようで、できていない事なんだなと感じました。

・ずっとわくわくしていました。事前からわくわくしていましたが、実際に手を動かし、見て、聴いて、わくわくが高まりつづけていました。

・アート、美術について難しく考えていたが、とても楽しく取り組めました。自由な発想や気づきがみとめられる教育が必要だと感じました。

・教える側(教員)がアートを体験することを、良い学びだと思います。

・楽しいWSだったので時間が足りなかった。

・夢中になって取り組む楽しさをありがとうございました。

 

(講演会に参加した感想)

・日本のあまりにも四角四面の正解ありきの教育を改めて再確認。日本の国民性の為、なかなか脱するのに時間がかかりそう。

・understandの視点に立って、子供たちと向き合うことの大切さを学んだ。

・「一緒に冒険の船に乗る。どこへ行くかはわからないけれど、それを楽しむ」――。

レッジョエミリアの保育士の言葉がとても響きました。一人で行き先のわからない未知へ向かうのは不安に満ちた日本社会では難しいけれど、だからこそ協働・連帯“わたしたち”というところが大切になるのだということを考えました。レッジョエミリアのアトリエリスタの先駆者VeaVecchiは「美」の役割として異なるもの同士を繋ぐ活性化物質であると述べています。今一度「美」&「アート」とは何か考えて、発信したいと思いました。

・海外の事例から、日本の教育の必要なことたりないことを知れて、今後の育児に役立てると思いましたし、今やってる自分の育児の姿勢の確認ができました。

・子ども中心の保育を今後も考えていきたいと大きな刺激を受けました。

・「えー!」「おぉー!」と夢中でお話を拝聴しました。 現代社会において、これからの時代において必要な力、必要な「場(活動)」について考えるきっかけをいただきました。

・内容が良く、自分の頭の中でも新しい知識を生成出来ました。

・子どもの教育に関心を向けることが大事だと思いました。

 

(参加者の抱えている幼児教育に対する課題や、悩み等)

・まだまだ「既知」のもの、「決まっている」ものが重視されがちな日本社会。学校ではなくコミュニティ・スペースなどのコアなフィールドは何ができ、何を発信できるか、常に模索しています。

・もっとアート的発想、自由な表現、こういったものがひろがっていくといいなーと思いました。

・私は保育園経営をしておりますが、保育士さんに広くアートの理解を深めてほしいと思います。しかし、保育士さんはなかなか研修の時間も確保できません。保育士さんが学びを深めるためにどうしたらよいかを考えています。

・「意見」です→AIが普及していく世の中でどういった力が重要なのか、問題意識をもち、考えていくことがとても大切だと思います。とても大切な機会をありがとうございました。

・講師への質問に出ていたことを、学びのプロセスと学校教育の現状から解説したい!

・先生方の指導力は、自身の体験が大事ですが、先生の体験が乏しいと思います。自然で学ぶことも大事だと思います。