新型コロナ感染拡大により、2020年は、演奏会、アートイベント、ワークショップなど様々な催しの中止や自粛を余儀なくされ、大人も子どももそれぞれに、自分の内なるエネルギーを発散させる機会も、文化芸術に触れる機会も極端に制限されました。

そんな状況下でしたが、多くの方々と話す中で、子どもたちが「見えないものを見る、聞こえない音を聞く」力に気づく機会があれば、子どもは自らのイメージを膨らませ、物語を紡いだり、絵画で表現したりできるのではないかと考え始めました。
聴覚や視覚で感じたことを言語で表現し、さらに別の表現においてみることで、子どもたちに「いろいろな表現」に気づいてもらう、さらに、他人の言葉や表現を知る機会にもなり、こういうことが日常生活で繰り返されれば、子どものころから「アート思考」も身につくと仮定してみました。
どうなるやらと心配しながらの手探りの実験ワークショップ「アート みて、きいて、はなそう」を開催しました。

そろそろクリスマスが近づいてきた12月20日、三島市民文化会館リハーサル室に小学校3年生から5年生までの8人の子どもが集まりました。ほとんどの子どもは、保護者に押されての参加だったのではないでしょうか?学校の音楽室の様なグランドピアノが置かれた会場に足を踏み入れ、どの子もかなり緊張気味。スタッフが声をかけると小さく返事をしてくれます。大丈夫かなぁ…。

私たち、スタッフや講師は、こんな状況を予測して、あれこれと子どもの気持ちをほぐすよう、クイズをしたり、言葉のトーンも子どもに伝わるようにしたりと大人の配慮をしましたが、付焼刃ですからそんなに簡単に子どもの気持ちはほぐせません、さぁどうなるか?

それでも、ピアニストがショパンの「華麗なる大円舞曲」を演奏し始めると、皆一心に聴いているようです。演奏家の曲のイメージを広げるようなトークや、ショパンが多くの人に愛された話などに耳を傾けていました。ショパンの友人、画家ドラクロワの「ジョルジュ・サンドの前でピアノを弾くフレデリック・ショパン」の絵画を見せながら、「この女の人は誰かな」「お母さんにピアノを聴いてもらって、お母さんが、ショパン、こんな弾き方のほうがいいんじゃない?」などと画家がつぶやくと、子どもの中には、「ショパンとこの女の人は普段にはない特別な(楽しい)時間を一緒に過ごしている」「女の人のためにピアノを弾いてあげている」など豊かな想像が出始めました。

ワークショップ下記のように進めました。

音楽を聴いて、演奏家のお話を聞く、絵画を観ながら、画家のお話を聞く➡

自分のイメージを膨らませるよう考える

自分のイメージを発表する➡

発表に質問したり、共感したりする➡

演奏を聴きなら、自分が感じたイメージや物語を絵にしてみる

今回は、特別に四つ切の画用紙に薄く五線を入れました。五線は、左から右へ、上から下へと時間が流れていくことや、現実には戻らない時間が音楽の中ではリフレーンというように前に戻って同じことが繰り返される、これも時間が前後に動いているのだと聞かされ、子どももスタッフも妙に納得し、このことは子どもに大きな印象を与えたようでした。

さあ、いよいよ自分のイメージを絵で表現します。画材は水彩絵の具とクレヨン。講師の先生が、ぼかしや絵の具を上から落とす技法を実演します。次第に先生の周りに集まる子どもたちに、技法を説明しながらも、技法にとらわれることなく、思いっきり描いてねと子どもの目を見る講師との間には、何か共通の空気が流れているようでした。

ここまで、10分の水分補給の休憩をとりながらすでに2時間が経過。いささか心配だった子どもの集中力は切れる様子はありません。いい感じでモチべーションが上がっているようです。
画用紙に下書きすることもなく、筆やクレヨンを走らせます。そばからそっと覗くと、抽象的な絵が多い!
小さく、家や動物や人を描くのかなぁと思っていたら、結構筆遣いも大胆に描く描く…。
中には、縦に画用紙をつなげて川の流れを表現するという子どももいました。
また、五線の意味を理解した子どもは、最初はファンファーレが鳴り、強い色彩で表現、緩やかに激しく速くといったイメージを色と、時間の流れや長短を五線も利用して表現している子どももいて、ただただ驚くばかり。
子どもって、一つの楽曲と一枚の絵から、こんなにも豊かな世界を創造するのだと、頭で考えていた以上に描いた作品を観て実感し、久しぶりに感動してしまいました。やっぱり子どもの脳はスゴイ!


1時間の制作時間を終え、いよいよ作品を壁に展示して説明です。
このころになると、子どもはかなり饒舌に、自分の作品について、何をイメージしたか、どこに工夫をしたか、使用した色彩は、時間が流れる様子、流れの変化、希望などにより色が違うなどと、聞いている人にわかるよう、大人顔負けの言葉を使い表現をします。小さい子どもと思って侮れないと、子どもの言葉が突き刺さりました。

実験ワークショップとしての挑戦でしたが、普段の子どもの様子からはでないような表現が自然に出てきました。このワークショップの構成が良いかどうかは別にしても、こんな機会が数多くあれば、子どもは、見えないものを観て、聞こえない音を聞く力を蓄え、様々な表現力はさらに磨かれるはず。

このワークショップを実現したことで、さらに課題が浮き彫りになりました。
私たちは、子どもたちにこのような機会を、日常的に提供できるだろうか?う~んどうしたもんか…。
音楽や美術などアートに接する機会のない子どもにはどうしたらよいのか、思いはさらに深みに沈んでいきます。
課題満載の実験ワークショップの開催でしたが、大きな収穫の一日でもありました。
参加してくれたみんな、ありがとう!きっと、また声をかけるね。

1月24日(日)には、同じワークショップをオンラインで開催しました。
オンラインワークショップの様子はこちら

開催概要はこちらをご覧ください。