2021年3月14日(日)に「アートでこどもと響き合う キッズアートプレイヤー養成講座」を開催しました。
参加された二村さんによるレポートです。

講座の概要はこちら


3月14日13時5分前。わくわくとパソコンの前に座った。今回の参加者は10名弱のようだ。

セッション1:アート思考のはじめの一歩〜こども心を開いてみたら?〜


13時。主催者代表の坂田さんのお話があった後、すぐに鈴木光男先生のセッションが始まった。
鈴木先生は、聖隷クリストファー大学こども教育福祉学科で教鞭をとられている。学生達と直に関わる他に、子どもにも大人にもアート思考の普及を目指すような、多彩な活動を行い、実践的な研究を重ねられている。先生の自己紹介やわくわくするような、様々な活動のお話を聞いた後、すぐに実技演習となり、ぶんぶん飛行機を実際に皆で作ることになった。


各々事前に材料を用意してあった、はがき大の厚紙を、指3本、2本、1本分の幅で、ハサミで3つに切って、ボンドと画鋲を使って割り箸に貼りつけ、たこ糸を結んで飛行機を作った。画面越しの先生の手を見ながら、参加者全員作ることができた。このぶんぶん飛行機は、羽に結んだ糸の末端を持ってまわすと、画鋲をさした紙のプロペラが回転して、びゅんびゅん音をたてて回る。自分で作れて、まわすと音が出て、空中で回る。その素直な手応えが嬉しかった。作り方もラフで良いのがまた楽しい。厚紙をきっちり定規で計ったりしなくても大丈夫。今度は子ども達とつくってみよう。(講義後に我が家の子どもたちに渡すと、特に息子は「すごいすごい!」と大好評だった)

配信会場でスタッフも飛行機を作りました

ぶんぶん飛行機で手を動かして、参加者の気持ちもほぐれた後、鈴木先生の講義の本題へと入り、現在の子どもの美術教育(表現活動)において、大人や教育者が心ない言葉をかけてしまうことがある、という問題意識を皆で共有することとなった。そのような際に必要なのは、自分の中のこども心を響き合わせること。大人の受信力であることを、鈴木先生が伝えられた。
その上で、米ハーバード大学での以下のような研究結果があることを説明された。
小さな子どもは、どの子も最初は、プロのアーティストと同等の芸術的な表現力があるが、だんだんと社会の中でその表現力を削がれていき、だいたい8〜11歳程度で表現力(意欲)は底まで落ち、そこから大半の人はそのままの状態でいってしまう。一方で、プロのアーティストは11歳頃からまた表現力(意欲)を回復し、向上させ、プロのアーティストへの道へと向かう、ということだった。
参加者の講義後の感想からは「美術が嫌いな学生の話や子どもが8~11歳までの間の時期が大切という話は心に残った。学校教育の現場でどうアート思考を取り入れていくかも重要だなと思った」という意見があった。

その後、鈴木先生は「アートとは何か?」また「アート思考とは何か?」という問いを、丁寧に参加者に投げかけた。

「アート思考」とは、「論理思考」「デザイン思考」と並んで、最近ビジネスでもその重要性が認識されてきている思考法で、
・「論理思考」は、物事の因果関係を整理し、誰もが納得できるように論理的に結論を出す思考法
・「デザイン思考」が、相手(クライアント)の課題を解決するための思考法
それに対して、
・「アート思考」とは、アーティストが作品を生み出す際の思考法をヒントにした、自分との対話、自分を掘り起こすことによって生まれる思考法
であり、「論理思考」と「デザイン思考」が他者に起点を置いているのに対し、「アート思考」は自己の内面に起点を置くことになる、ということだと私は理解している。

まずは、2〜3人ずつのグループワークで、問いについて自分たちで考え、他の参加者の考えを聞き合った後、今度は全員で、各グループで出た様々な意見を共有し合った。そうすることで、アートについての広がりを皆で共有し、また始めて聞いた「アート思考」という思考法について、深く考えるきっかけをもらった。
鈴木先生は、自身の活動をふまえ、その「アート思考」の重要性を説かれ、アート思考を土台にして人間関係や社会を築くことは、大変重要であること、特にこれからのAIを使用した未来社会においては、さらに重要性が増すだろうということを説明された。

最後に、キッズアートプレイヤーとして重要なのは、美意識、完成、遊び心、想像力の4つで、この言葉の最初の漢字をとって、「美感遊創」という言葉を参加者に送って、鈴木先生は約1時間半のセッションを終えられた。

セッション2:未来を生きる子どもたちのために〜子どもの遊びや生活から広がるアートの世界〜


休憩を挟んだ後、14:45からは藤田雅也先生の講義が始まった。
藤田先生は、現在静岡県立大学短期大学部こども学科で、保育園・幼稚園の先生を目指す学生に対して、保育現場での造形やその考え方を実践的に教えていらっしゃる方。造形アーティストとして活動されている。ご自身のこれまでの様々な活動をわかりやすい事例と共に紹介しながら、講義を進められていった。

まずは、学生とやると盛り上がるという、新聞紙1枚を使ったゲームを皆で行った。1枚の新聞紙をちぎって、制限時間1分以内にどれだけ長くできるかを競い合う。新聞のちぎり方一つとっても、一人一人の工夫がみられ、全員同じ方法ではなかった。参加者の中には七夕飾りのようにちぎる人、折り目を最初につけておく人、端から順にちぎっていく人など様々だった。
このゲームに正解はない。皆で楽しみ、そんなやり方があるんだね!と相手を認め合う、それが大切なことだと伝えたくて先生はこのゲームをやったのではないかと思われた。

ゲームで皆の気持ちがほぐれた後、以下の3つのテーマに沿って、藤田先生はお話していかれた。
・身近な環境や自然素材から生まれるアート
・地域資源から生まれるアート
・世界をつなぐアート

「身近な自然素材から生まれるアート」の演習として、藤田先生が保育園の実習で学生と子ども達またその後大学での一般公開時に実際に行った、色砂作りの実践を行った。事前に用意できた参加者は、好きな色の絵具、砂場の砂(50~100cc)、ビニール袋を用意し、藤田先生にまねて、砂をビニールにいれ、絵の具を入れ、よくもみこむと…絵の具の色の砂ができた!本当にできた、嬉しい!砂をもみこむ感覚が面白かった。

色砂が出来た後は、子ども達とこれを使ってどんなことができるかを、再び少人数のグループで思いつく事を話し合い、その後全員で共有した。大きな紙の上に色砂を撒いて絵を描く、色付き泥だんごにする、色砂マラカスを作る、等様々な意見が聞かれ、一人では思いつかなかったアイデアが次々にでてきて、皆で考えるとアイデアが広がる事を実感した。

次に、「地域資源から生まれるアート」として、藤田先生が以前住まれていた地域で生産されている瓦を使った子どもたち向けのワークショップの事例紹介を聴き、地域資源をアートに取り込むことの面白さ、その可能性を知った。

「世界をつなぐアート」としては、世界児童画展の紹介があり、世界の子どもたちの様々な絵を皆で見た。
その後、再びグループワークで、先生が選んだ一枚の子どもの絵を見ながら、参加者同士で、その子が何を描いたのかをあてようと話し合った。
結果は、お芋掘りの絵だったが、参加者からは様々な意見が出て、おもしろかった。藤田先生や他の参加者の方々と子どもの絵を一緒に見ていく事で、より子どもの絵の世界の中に入っていけるような感覚になった。それは、子どもが描いた一つ一つの絵のピースが語りかけてくるような感覚、そしてまたそれを見て、自分の感覚でお話をつくっていくような感覚だった。それが子どもの世界に入ることだろうか。
どの子も違った、かけがえのない、世界があることに気づかせてもらった。

最後に、藤田先生はあらためて、ひとりひとりの子どもに想像力の泉があること、大人も一緒になって楽しむことの大切さを説かれ、かけがえのないオリジナリティーを持った子どもが目の前にいる、という地点に大人が立つ、そのことの重要性を参加者に伝えて、セッションを終えられた。

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内容が大変充実していて、ここには書ききれないほどであり、3時間半の講義もあっという間だった。
今回の講座を聴いて、私自身は、「アート思考とは?」という問いを自分の心の中に旗をたてることになった。それを考え続けること、また機会があれば他者と共有し、対話をしていくことで、自分の中に何かしらアウトプットできるもの、子ども達に伝えられる方法を見つけていけるのではないか、という明るい希望のようなものを持つことができるようになった。
このような貴重な機会を創造してくださったアルテ・プラーサの皆様に深く感謝申し上げます。

配信の様子